10年前のSSライン誘致運動

湘南新宿ライン(以下、SSラインと略す)は渋谷・新宿・池袋などの東京副都心を経由して北は高崎・東北本線、南は東海道、横須賀線方面に直通する路線系統をまとめた呼称です。今年で開業20周年を迎える同路線はいまや山手線に匹敵する最重要路線となっており、JR東日本の経営を支える大黒柱の一つとして活躍しています。

そんなSSラインを、高崎駅から西へと向かう信越線に直通させようという運動が群馬県安中市等の信越線の沿線自治体らによってかつて行われていました。今から大体12年前の事です。

13万人強の署名活動は結局実らず

信越本線はかつては高崎から長野・直江津を経由して新潟駅に至る長距離幹線で、途中の横川から軽井沢には国鉄・JR最大急こう配と言われたあの碓氷峠区間が存在していました。ですが1997年10月1日に長野まで暫定開業した、北陸新幹線の並行在来線に指定された同線は碓氷区間廃止、軽井沢から篠ノ井の区間(のちに長野ー直江津間も)三セク転換を経て今に至ります。

碓氷峠の主ことEF63型電気機関車

JR線として残された3区間の内高崎から分岐する高崎口区間に、SSラインを直通させようと沿線自治体はわざわざ専用ののぼりを作成してまで住民に呼びかけ、署名活動を行って信越線高崎口を運営しているJR東日本高崎支社におよそ13.2万人分の署名簿と請願書を提出しました。

こういうのが横川駅付近に3つくらいあった

しかしそれから10年以上たってもいまだ何の動きがない所を見ると結局今回の署名活動は有耶無耶になった、という見方で相違ないでしょう。自治体ももう諦めたのか忘れたのか、横川駅の目の前にある鉄道テーマパーク、碓氷峠鉄道文化むらに立っていた誘致運動ののぼりもいつの間にか消えてしまいました。

来なかった理由についての考察

来なかった本当の理由については分かりませんが、大体の見当はついています。個人的ながら3つほど考察してみました。

その1:設備上の問題

第一にこの問題にぶち当たります。というか、署名分が提出されたときに東京新聞の記事でJRが「請願は真摯(しんし)に受け止める。設備上の問題もあり現在では難しい状況」とこぼしています。SSラインの列車が高崎からそのまま10両で乗り入れてくる場合、信号設備やホームのかさ上げ、さらにはグリーン券売機などの決して安くはない設備投資が必要になります。しかし碓氷峠亡き今ピーク時間でも6両で済んでしまうようなローカル線に、そこまで資金をつぎ込むほどJRは甘くないでしょう。

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その2:運用上の制約

釈迦に説法かと思いますがSSラインと高崎線の使用車両は東海道線や東北本線と共通の車両、E231系とE233系電車です。高崎車両センターで何編成か留置してあるのを見てわりかし余裕がありそうにみえますが、あれでもなかなかハードな運用を組んでいるので信越線とかいうローカル線に回す余裕なんてありません。これは籠原で切り離される5両編成の増結編成にも言えることです。加えてSSラインはよく遅れるので、もし信越線と直通なんてしようものなら積もり積もった遅れを碓氷峠の手前まで持ってくる羽目になるので、ダイヤの乱れの影響範囲を最小限に抑えたいJRの方針に背くことになります。

その3:そもそも直通させるほどの利用はない

正直これに尽きると思います。長野まで繋がっていた時代ならまだしも、碓氷峠廃止後に残された3区間の内、唯一盲腸線となったこの区間は同区間廃止前に比べて利用者は3分の1に減ってしまい、今や1日当たりの通過人員は5千人にも届きません。地方の盲腸線にしては頑張っている数字ですが、SSラインを直通させるために設備投資できる数字かというとそうは思えません。

と、このような感じでいろいろな情報やデータをもとに自分なりの推測を立ててみたのですが、調べれば調べるほどSSライン横川直通がそもそも無理な話だという事を思い知らされました。

etc.上野直通便は1往復だけあった

そんな信越線ですが、実は上野方面とは碓氷廃止後も1往復程度直通していました。まだ115系や107系が高崎エリアのメイン車両だったころ、211系の5両編成が横川を発車し、高崎・籠原で5両ずつ連結しながら上野へ向かっていたそうです。まだ高崎線にグリーン車が導入される前(2004年以前)の話なので、今とはかなり事情が違うかもしれませんが、なんだかんだで需要があったのでしょう、運用消滅後も同区間に不定期で臨時快速「碓氷」が2015年ごろまで設定されていました。閑話休題。

波動用の183系電車が碓氷・みなと碓氷に使用された。

結び:でも、決して無駄ではなかった

横川にSSラインを誘致する運動は立ち消えとなりました。ですが、完全な無駄足だったかと言われるとそうでもないと思います。

丁度横須賀線・SSライン武蔵小杉駅が開業した2012年の夏、普段なら上野発着の快速碓氷と、特急草津が臨時で大船発着で運転されました。その名はみなと碓氷とみなと草津。同路線を経由する列車がたった2日間だけですが初めて横川にやってきたのです。しかも乗車した人の話によればちょうど開業したての武蔵小杉駅でほぼ座席が埋まったのだそうです。署名文提出から2年後の事でした。

高崎ー横川間はほぼ毎月客車列車を走らせている

たった2日間だけの臨時列車設定で終わったとしても、何もしないよりかはよっぽどマシです。何より実績を作ったことはとても意義のあることです。この列車の設定を契機にSSラインを利用して信越線にやってくる観光客は確実に増えたことでしょう。ときたま走る人気の客車列車や碓氷峠鉄道文化むら、碓氷峠の鉄道遺産群など集客力がない訳ではありませんので、もしかしたら近い未来再びSSライン経由の臨時列車が設定される時がやって来るでしょう。(了)