九州のキハ40観光列車のはしり

いさぶろう・しんぺいは、JR九州が主に肥薩線をメインに運行している観光列車の名前です。八代から人吉方面に向かう際はいさぶろう、逆方向に向かう際はしんぺいと上り下りで列車名が違う珍しい列車です。八代から人吉を経て吉松、隼人に至る肥薩線の、それも一番利用者の少ない人吉ー吉松間の四往復しかない普通列車のうち一往復に名前を付けたのがこの列車の始まりです。

国鉄・JRを通しても珍しい人名由来の愛称で、いさぶろうは人吉ー吉松間が開通した当時の逓信省(ていしんしょう、当時郵便、交通、通信等を管轄していた中央官庁)大臣の山縣伊三郎から、しんぺいは同区間開業当時の鉄道院総裁の後藤新平からとられています。肥薩線の矢岳第一トンネルに両名の扁額が残ることにちなんでいるそうです。

1996年に走り始めた当時は国鉄時代の置き土産形式の一つであるキハ31系を畳敷きに改造した程度のものでしたが(そのままでよかったのに.…)、2004年の九州新幹線部分開業の際に今現在使用中のキハ40形気動車(正確にはその改造車のキハ140系列)に車両が変更されました。そのわずか7か月後には利用率好調に伴ってもう一両改造したうえで増結しています。同時期に同じ肥薩線の吉松ー隼人間でデビューしたはやとの風とともに新幹線ブームの追い風にのって肥薩線を盛り上げていきました。

不幸にも黒塗りのキハ40に遭遇してしまう。

たった7席のロングシートに特急券!?

元々人吉から吉松までの九州一の閑散区間を走るために作られたいさぶろう・しんぺいですが、2016年のダイヤ改正で同じ肥薩線を走っていた特急くまがわの廃止や九州横断特急のルート変更にあわせて人吉から八代・熊本方面への都市間輸送も担うことになります。しかしどうせ走らせるならやはり乗りに行きたくなるような観光列車を走らせようと思ったJRは、人吉ー八代間に上記とは別の特急列車を一年後に設定しました。それがあのかわせみ・やませみです。

しかしこの列車はくまがわ・九州横断特急の代替分のうち、3往復しか代替しませんでした。残りの一往復は引き続きいさぶろう・しんぺいが担当するのですが…こともあろうにこの列車も同区間にかぎって特急列車として運行することになりました。これに合わせて座席も特急らしく改造するのかと思いきや、なんと特に改造もせず従来からのボックスシート主体のまま特急運用に入らせたのです。

これに指定席特急券はちょっと…

もっと凄いことにこの列車、かわせみ・やませみ1・2号と同じく自由席を設けているのですが、その自由席はなんとロングシートなのです。しかもトイレ近くにたった7席と申し訳程度の数しかありません。こんな事ならせめて全席指定と案内してくれたほうがまだ良心的だと思うのは筆者だけでしょうか…

こんな味気ない~ロングシートに特急券とかぼったくりやろ!

なおかわせみ・やませみもボックスシートやロングシート(ソファ席)を設置しているものの、こちらは3人以上で予約した場合のみ座れる、所謂コンパートメント座席の役割をもっています。少なくとも自由席利用でロングシートに座らせられるようなことはありません。

かわせみ・やませみの座席。これが普通なんだよ

下手をすれば普通列車より劣るかも…

ところで肥薩線の普通列車には基本的にキハ40系列が使用されるのですが、時たま赤いキハ200系が運用に入るときもあります。このキハ200、かつては日本最南端を走る指宿枕崎線の優等列車で、現在の特急指宿の玉手箱の前身列車であるなのはなDXの指定席車として運用されていた車両です。

残念ながら7月豪雨でエンジンが浸水して自走できないとか…

普通のキハ200とは違って座席が全てリクライニングシートとなっています。普通運用に再転用する際、リクライニング機構は撤去されましたが回転機構はそのまま残されました。この時点でいさぶろう・しんぺいに大きく差をつけています。唯一の欠点といえばWifiがないことくらいですが、肥薩線の沿線は駅周辺でもない限りほとんど通じないことが多いので大した差にはなりません。閑話休題。

肥薩線の貴重な収入源だが、当の肥薩線は…

このように肥薩線界隈はいろいろな意味でとにかく多種多様な列車が存在していました。阿蘇からやってきた8620型蒸気機関車58654型を用いた列車、SL人吉や人吉で接続する第三セクター鉄道、くま川鉄道とともに肥薩線沿線に客を呼び込む貴重な観光資源として活躍していましたが…

去年の2月に乗りに行った時が最初で最後にならないといいな

2020年の7月に九州を含め日本各地を襲った令和二年7月豪雨は肥薩線に並行する球磨川を氾濫させ、周辺地域に甚大な被害を及ぼしました。特に球磨川に沿った区間が多い肥薩線の人吉以北は壊滅的な被害をうけ、ほとんどの路盤や橋梁が流出してしまい、もうすぐ一年経とうとしているのにいまだ復旧の見込みは立っていません。

この災害を受けて熊本県が一度は撤回した川辺川ダム計画を再開させるに合わせてようやく復旧費用の算出が始まったばかりですが、肥薩線はBRT転換が正式に決まった日田彦山線よりも収支が厳しい路線です。正直鉄路で復旧する可能性は限りなく低いと言わざるを得ません。高波にあおられて路盤が流出し、そのまま7年も放置されて配線になった北海道の日高本線のように復旧しないまま廃線の上バス転換されるのが関の山でしょう。できれば外れてほしいのですが…

これが肥薩線の未来か?

かわせみ・やませみと共に博多・小倉へ出張運転中

肥薩線自体はすでに絶望的ですが、肥薩線を走っていた観光列車軍団は運のいいことにみな無事でした。はやとの風はコロナウイルス感染拡大の影響で当面の間運休していますが、いさぶろう・しんぺいとかわせみ・やませみ、そしてSL人吉は肥薩線復旧を支援するためとコロナ禍で落ち込んだ利用客を取り戻すため、土休日や繁忙期を中心に福岡近郊で出張運転を行っています。特にSL人吉は去年流行したとあるアニメに登場した、「無限列車」という架空の列車を模して運行したこともあって大盛況でした。

座席のグレード、どちらが・・・上かな?
もちろん、左(813系)だよね。

いさぶろう・しんぺいとかわせみ・やませみは同系列の気動車であることを生かして、博多から小倉・門司港へ併結運転を行っています。運転に合わせて車内で人吉や球磨地区の商品や沿線の特産物などを販売して肥薩線早期復旧を応援しています。そして嬉しいことに(?)全席指定なのでロングシートに特急券を払わされることはもうないので安心して乗車できます。福岡県に遊びに来た際は是非とも乗りに行きましょう。(了)