ここ最近いいことなしのN’EX

成田エクスプレスは、JR東日本が首都圏各方面から成田空港へ走らせている空港アクセス特急列車です。基本6両編成ですが、時に東京駅で増結を行い、12両で運用することもあります。両数だけ見ればそこそこ長い編成ですが、12両も使うほど利用者がいるかと言われたら・・・どうでしょうか。特に最近はコロナ禍という事もあって空席が目立ちます。

11年前、成田空港のB滑走路滑走路延長工事完成を見据えて、253系電車に変わる新型車両、E259系をデビューさせたのはいいものの、どうも思うように利用客は伸びません。前任の253系は3両・6両で需要に合わせて両数を変更できたのですが、E259系は6両固定編成。2編成繋げたら12両編成になります。デビュー当初は東京から成田空港の区間は全列車12両で運転していたそうですが、流石に長すぎたのでしょうか、2012年のダイヤ改正で再び6両で成田空港に向かう運用が復活しています。

微妙に高い成田エクスプレスの料金

JRの特急料金はA,Bと2種類に分かれているのですが、成田エクスプレスはA特急料金を適用しているため、普通の特急と比べて少々高めの料金設定となっています。加えて全席指定となっているために、もしこの列車で東京まで乗る場合、少なくとも3000円弱の値段を払うことになります。

一方、もう一つの成田アクセス鉄道である京成電鉄は、途中で北総線を挟む形にはなりますが日暮里までは運賃が1270円、スカイライナー料金が1250円、合計2520円で都心に向かうことが出来ます。もしここからJR利用で東京駅に向かったとしてもN’EX利用より安く済んでしまいます。

速くて安い、最高だ。

羽田空港国際化以来、LCCの拠点として新たに棲み分けを図っている成田空港ですが、LCCは何でもいいからとにかく安く飛行機に乗りたいお客の需要を満たすために生まれた航空会社です。そのLCCの利用者がわざわざ高い成田エクスプレスを選ぶとは考えられません。たとえJRを利用するとしてもせいぜい総武線・横須賀線方面直通の快速列車利用がいいところです。

LCC専用の成田第三ターミナル

が、これらは全て日本人に限ればの話。外国人利用者は上記の通りジャパンレールパスを使えば追加料金なしでN’EXを利用できるので関係ありません。また、いくら国際化したとはいえ羽田から鉄道を使うとなるとどうしても乗り換える必要があるので、新宿・渋谷・池袋などの副都心や大宮、横浜、富士山方面に一本で直行できるN’EXのほうが便利です。そういうこともあってか、N’EXは徐々に外国人利用者をメインターゲットにしていきます。

利用者のほとんどは外国人、しかしコロナで…

インバウンド効果が表れた2010年代後半から、有名なジャパンレールパスはもとより、N’EX東京ダイレクトチケット等の明らかな外国人向けのお得な切符設定で成田エクスプレスは囲い込みを図ります。もちろんN’EX往復切符や一部便のえきねっと特だ値設定など国内利用者に対してもお得な切符は設定していましたが、往復切符は安くても5000円するのに対し、ダイレクトチケットは片道1500円(当時)、しかも東京特定電車区間乗り放題というあからさまな外国人優遇でした。

公式プレスより。こんな切符あるの知らなかった…

そしてここ一番の晴れ舞台、来る2020年の東京オリンピックに伴った需要増に合わせて再び東京から成田空港間の全列車が12両編成に戻り、あとはいよいよオリンピックを待つだけだったのですが、新型コロナウイルスによる影響で目当てにしていた外国からの乗客はぱったりと途絶え、去年の6月から一部の便を減便とする措置を取る羽目になりました。国内利用者を冷遇し過ぎたツケがいま回ってきた格好です。コロナが来ないうちにもう少し日本人利用者向けに積極的にお得な切符を設定していれば少しはマシだったかもしれませんが、今となってはもはや手遅れです。

でもいうてスカイライナーも結構…危ないかな…

流石に成田空港の利用者数は激減したものの0にはなっていませんが、そのわずかな利用でさえ殆どは早くて安い京成スカイライナーを使ってしまうので成田エクスプレスには見向きもしません。おかげで今も6両どころか3両にしても空席が目立つかもしれないくらいガラガラです。デビュー当初はその顔の形からJR北海道に似せているのではと言われていましたが、まさか利用者数まで似せてくるとは流石に夢にも思わなかったでしょう。

こうしてN’EXは、国内外両方の利用者から事実上見捨てられた格好になりました。

京成・北総の無慈悲な死体蹴り

N’EXがオワコン化している間、もう一つの成田アクセス鉄道である京成と北総も同じくコロナの影響を受けていました。しかしあの手この手で空港アクセス以外の需要を取り込んで生き残りを図ります。そしてその策は意図せずしてN’EXへの死体蹴りとなっていたのです…

スカイライナー青砥停車

成田空港から日暮里までノンストップで最短36分で結ぶのが売りだった京成スカイライナーは、今回のコロナ禍による移動需要激減を受けて、2020年4月から一部のスカイライナーを途中の青砥駅に停車させることにしました。これがなかなかの妙策で、青砥は京成押上線との分岐駅、そして同線から直通する浅草線・京急線方面とも連絡できる駅です。この駅に止めたことでスカイライナーの利便性はむしろアップし、都心方面や横浜方面へ改札を挟まずになおかつ早く行けるようになりました。そんなこともあってかわずか2か月で青砥に停車する便を拡大しています。

京成公式プレスより。1000円ぽっきりという所がいいね

乗換えを一回挟む形になりますがネットワークのきめ細やかさはN’EXの倍以上となり、ここに最大の強みの一つであるネットワーク性が潰されてしまいます。しかしこれだけでは終わらず、1年後は何と北総がダメ押しの攻勢を仕掛けてきます。

北総線運賃値下げ検討

丁度この記事が投稿された3日前に(6月23日)北総線が、累積損失があと2年ほどで解消できる見込みが立ったことから、自路線区間の運賃値下げを検討すると発表したのです。千葉県にある東葉高速鉄道と並んで運賃が高い私鉄として知られてきた北総がついに値下げを表明したのです。

北総沿線民は狂喜したろうなぁ・・・

沿線住民は悲願である値下げがようやく叶うことに喜んでいますが、JRからしてみれば痛恨の一撃です。高い高いとは言いつつも、成田空港から都心までトータルで見れば千葉を経由するJRよりも安い運賃設定です。そこからさらに値下げをすればN’EXはさらに窮地に追い込まれるでしょう。

唯一のアイデンティティも東日本自身が奪い取る

京成と北総に乗客や強みも何もかもを奪われてしまったN’EX。唯一残っていたのは、千葉県内をはしるJR列車で唯一全席コンセントとWifiを完備していたことだけでした。その特性を生かして去年の11月末に、両国駅でシェアオフィス電車、「N’EXでテレワーク」として活用されています。グリーン車も追加料金なしで使えることもあってか130人ほどの応募があったようで、下手をすれば走っている時よりも座席が埋まっていたとも聞かれます。

コロナ禍直後のN’EX利用状況。日中とはいえ10人もいなかったのはやばい

しかしその唯一残されたアイデンティティも、それから1か月後に導入されたE235系1000番台が掻っ攫っていきました。コンセントとWifiを使うにはグリーン車を利用しなければなりませんが、N’EXの高い指定席特急券とは違ってどんなに乗ったところで1000円、休日は800円しかかからないのでお得です。そしてすべてを奪われたN’EXをあざ笑うかのように、同形式はなぜか成田空港発着のいわゆる「エアポート成田」運用を中心に横須賀・総武線を走っています。

N‘EXの明日はどっちだ?

コロナで頼みの綱の外国人利用者を失い、そして京成や北総、あろうことかJR自身にさえ特性を奪われてしまったオワコン特急N’EX。この列車が生き返るにはとにもかくにもコロナが収束することが一番ですが、JR東日本自身、たとえコロナが収束してもコロナ前までの水準には戻らないだろうと考えています。コロナ禍前でも外国人以外は全く利用がなく、スカイライナーにも届かなかったN’EXに果たしてこの状況が収束した後も生き残ることができるのでしょうか?(了)