2022年2月16日、JR西日本は2年後の2024年春に新型車両273系を新たに特急「やくも」に充当させると共に、現在運用中の381系を2024年度中に全て置き換えると発表した。この発表により、定期運用で用いられている現役の国鉄型特急車両は、全て引退することが確定した。今回は近い将来に引退が決定した381系の「やくも」を紹介する。

381系の特徴

381系は、高速状態を維持したまま車体を傾けながら曲線を通過できる、いわゆる「振り子式」特急車両である。「振り子式」と一言でいっても、そのタイプは2種類に分かれる。1つは、カーブに差し掛かったと同時に車体を傾ける「自然振り子式」。もう1つは車両に搭載されたコンピューターが路線に敷かれた線路を把握し、車両が走っている位置をそのコンピューターが特定することによってカーブに差し掛かる前に車体を傾けてからカーブを曲がる「制御付き自然振り子式」である。381系はこれら2種類のうち、前者の「自然振り子式」を採用している。この振り子式を使用することで、カーブに差し掛かった際に起こる遠心力を打ち消し、かつ高速状態を常に維持できるので、所要時間を大幅に短縮することが可能になるのである。

そんな381系は1973年にデビューし、中央本線の名古屋~塩尻/松本/長野方面を結ぶ特急「しなの」に投入され、それから9年後の1982年7月のダイヤ改正で伯備線に投入され、新たに岡山~出雲市間の特急「やくも」としてキハ181系からバトンタッチする形で充当された。伯備線は勾配も多く、高梁川や日野川の上流~下流に沿う形で山間部を縫うように伸びる、実にカーブの多い線路が敷かれた路線なのだが、381系はまさにこの伯備線にはうってつけの車両だった。自然振り子式装置による曲線通過速度の向上により、伯備線内では最高速度120 km/hの俊足を誇り、更に所要時間もキハ181系時代の約4時間から約3時間に短縮されたことは、当時の鉄道ファンに衝撃を与えたことだろう。

1両だけ何か違う?先頭7号車、クハ381

出雲市駅に停車中の381系。写真はまだ国鉄色に塗り替えられる前の「特急やくも24号」である。

381系は多客時(夏休みや冬休みなどの大型連休)に入ると、先頭車を含む3両が増結され、7両や9両で運転されることがよくある。しかしその3両の中で1両のみ違和感のある車両が存在する。それは先頭車「クハ381」である。この車両のどこに違和感があるかというと、それは車両に搭載された「方向幕」や「車内デザイン」である。もちろん381系は1973年生まれなので、方向幕がついていること自体に疑問は抱かないが、2007年頃にリニューアルが施され、座席モケットや車内デザイン、車体のカラーリングなどを一新し「ゆったりやくも」として再スタートを切った。その際に方向幕もデジタル式表示のものへ変更された。

しかしそうしたリニューアルが施されたにもかかわらず、リニューアル前の状態の車両がなぜ存在するのか。その理由は「車両の経歴」に隠されていた。「やくも」の編成表を調べると、増結3両編成の先頭車が5両存在するクハ381のうち「クハ381-107/108/109」の3両は「107・108は吹田総合車両所の日根野支所(旧日根野電車区)から、109は福知山電車区から転属」という記載がある。つまりこの3両は、かつて京都から白浜、紀伊田辺、新宮方面を結ぶ特急「くろしお」を担当していたのである。2015年の引退後に所属車庫を変更して「やくも」に充当されたということである。

岡山方先頭7号車クハ381-107の方向幕
リニューアル後の方向板。幕式からデジタル式表示に切り替わった。
7号車クハ381-109の車内。国鉄車ではおなじみの長方形の蛍光灯が使われているが、改造車と比較するとこちらの方が明るい。
デッキのくずもの入れは従来の国鉄型特急車両と同じデザインのものを使用している。

1番前に座れば絶景を独り占め!パノラマグリーン車、クロ380

岡山駅に停車中のパノラマグリーン車、クロ380。「特急やくも27号」として出雲市へ向かう。

 381系の魅力は国鉄型特急車両伝統の“電気釜フェイス”だけではない。ゆったりとした座席で運転室の前面展望を満喫できる車両が同形式には存在する。その車両が写真の「クロ380」、いわゆる「パノラマグリーン車」である。この車両の特徴は何といっても一番前の座席である。特にパノラマグリーン車である1号車1番のC席は1人掛けの座席で、正面には大型の窓があり運転士より少し高い目線で前面展望を満喫できる。車窓右手には山陰地方の名峰「大山」や石灰石が採れる「井倉洞」など、左手には高梁川の下流~上流までをそれぞれ楽しむことができる。

このパノラマグリーン車は2両存在し、山陽本線/伯備線の時刻表には「パノラマグリーン車を連結」と記載されている。「やくも」1~30号までの全運用のうち、下りは3・13・17・27号に、上りは2・12・16・26号にそれぞれパノラマグリーン車が組み込まれている。ただし検査や事故などで担当から外れることもあるので、運転状況には十分注意が必要だ。

国内の電車では381系にしかできない連結方法?~変態連結~

4号車はクモハ381(写真右)、5号車はモハ380(写真左)

381系のもう一つの魅力は「多様な編成が組める点」である。かつては最短が3両だったが、リニューアル後の基本編成はパノラマ/ノーマル編成共に4両で、状況に合わせて2両のモハ車を増結して6両に、さらにその基本編成に3両増結して7両、そして9両と多種多様な編成を組むことができる。特に7両編成においてよく見られるのが、写真のような連結形態。中間車と先頭車が連結している違和感から、鉄道ファンの間ではこのような不思議な連結を「変態連結」と呼ばれている。このような連結形態はJR四国の2700系やJR東海のキハ85系などの気動車特急でよく見られるが、電車での変態連結はおそらく381系が最後になるであろう。

4号車クモハ381の貫通扉。特急シンボルマークやヘッドマークも間近で撮影できた。
4号車クモハ381の運転台。4両や6両での運用では見られない光景だ。

“ゆったり”どころか“ぐったり”?

~振り子式を導入したが故のデメリット~

「自然振り子式」を導入し、曲線通過速度を上げたことで速達性をアップさせたことには成功したものの、それとは裏腹に「快適性」に問題が生じた。つまり「乗り心地」である。山手線のような通勤車両や在来線特急、新幹線には曲線そのものが傾いている「カント」というものが備わっていて、制限速度は設けられているものの、脱線することなく遠心力を打ち消すことができる。都心に近い所では小田急小田原線の鶴巻温泉駅や中央・総武線の飯田橋駅などがその典型例である。

しかし381系の場合、伯備線や山陰本線に敷かれた曲線に備わるカントに加えて車両の傾斜がかかるため、一般的な車両よりも大きく傾く。特に伯備線は曲線区間が多いため、まるでジェットコースターに乗っているような感覚がする。そのため乗客からすれば、左右のカーブに振り回されてばかりで気分が悪くなってしまう。だがその対応としてトイレにはエチケット袋が備わっている。このような特徴から鉄道ファンからは「ゆったりやくも」ならぬ「ぐったりはくも」と揶揄されている。

曲線通過時の381系の車内。
エチケット袋は洗面台の左側に設置されている

終わりに ~最後の国鉄型特急車両として~

ここまでいかがだっただろうか。381系の魅力や特徴が少しでも伝わってくれれば幸いに思う。2022年で「やくも」が特急に格上げされてからちょうど50年を迎える。現在はその記念として、一部の運用で懐かしの国鉄色に塗り替えられている。

また新型車両273系の登場により引退が間近に迫ると「やくも」の注目度が上がり、さらに381系自身も翌年の2023年で登場から50年の節目を迎える。だが完全に引退するその日まで、「最後の国鉄型特急」としての使命を全うしてほしいものである。