本州3社の新幹線をどうするべきか?

JRは1987(昭和62)年4月1日、日本国有鉄道を民営化することで発足した民間会社であり、今年の4月で35周年を迎えることとなりましたが、新幹線に関しては発足当初はJR各社の所有ではなく、新幹線保有機構と呼ばれる会社が一括して保有し、JR3社(当時は、JR東海・JR西日本・JR東日本)に貸し付けると言う方式が採られていました。

これは、下図のように、東海道新幹線が圧倒的な収益力がある反面、山陽新幹線や、東北・上越新幹線は当然のことながら収益力が劣る他、昭和57年に開業したばかりの東北・上越新幹線は建設費の償還が終わっておらず、当然のことながら決算上は赤字となっていたのでした。このまま、JR各社に新幹線を保有させると東海が一人勝ちする反面、東日本は首都圏の圧倒的な輸送需要があるとは言え、その黒字分を新幹線の建設費償還に充てることとなるため、こうした事態を修正することを目的としたものでした。

昭和61年度の決算で、東海道・山陽新幹線で収支係数51、収支係数171・187といずれも大きな赤字を生み出していました。(東海道・山陽は一括で計上されていたため)

そこで、新幹線に関しては火災保険の保険料算出などにも使われる再調達価額方式により計算されることとなりました。すなわち、新幹線を新たに建設するとした場合の価格と言うことで、8兆4600億円と算定して、これに相当する債務を本州3社に按分することとしました。

新幹線保有機構はどのような仕組みだったのでしょうか

新幹線保有機構では、昭和60年当時に開業していた新幹線を一括して保有してJR東海・西日本・東日本に改めて貸し付けるというもので、以下のようになっていました。

元々国鉄の保有であった新幹線を国が取り上げて改めてJR各社に貸し付けるというもので、その際に収益性の高いJR東海には高いリース料を、逆に工事費の償却などが大きくなるJR東日本には少なく、山陽新幹線も東海と比べれば輸送量は圧倒的に少ないので同じく、JR東海と比べれば割安なリース料で使用できることとし、30年リース(30年後にどうするかは先送りとされていました。)ちなみに、リース料の中には8兆6400億円の債務に相当する額の債務とそれに相当する利息(平均年率7.24%)及び資産にかかる市町村納付金及び保有機構の管理費を加えた額で、元利支払合計額は、7,124億円(JR3社総額)となっていました。

なお、このリース料は二年ごとに見直されるとされており、更に30年後にはJR各社の保有とするかの結論も先送りにされていました。

さらに、この方式では日常の点検保守業務などはJR各社の負担とされており、昨今の地方路線における上下分離などと異なり、車両並びに線路設備などの維持管理はJR各社の負担となっていました。

保有機構が対応するのは当時既に建設中であった東京~上野間の工事のみで、国鉄時代に始まっていた東海のBTき電方式からATき電方式への改良工事などはJR東海の負担とされる他、貸付額の総額は変わらないものの、会社負担額は輸送量の実績に基づき、二年ごとに配分比率が変更されるため、輸送量が増えれば増えるほど、リース料が上がるという仕組みとなっており、JR東海には大変厳しい内容ではありました。

なお、上野~東京間の工事に関しては保有機構が行うこととされていましたが、この工事完成後により貸付料の総額も変更されることとされていました。

現在の整備新幹線とは異なるリース方式

ここまで見ていただくと判るのですが、整備新幹線の場合、国と地方自治体の負担で新幹線を建設し、JRは使用料という名目で半永久的に支払いこととなります。(より正確には、次回以降にお話をさせていただきますが、新幹線保有機構からJR3社が新幹線を買い取ることによって得られた既設新幹線譲渡収入も組み込まれていますが、その多くは国並びに地方自治体の負担となっています。ですので、そうした意味では新規に開業する整備新幹線の場合、JRは儲からない区間を分離することができる反面、比較的人口の集積が多い区間などでは分離せずにJRに残すという選択権を持っています。

JR九州が、博多から熊本まで並行在来線を残しており、鹿児島本線の例では、八代~鹿児島中央(新幹線開業前は西鹿児島)だけが肥薩おれんじ鉄道に移管されたのがその例。

このように、JR発足時の新幹線保有機構によるリース方式は、JR本州各社、特にJR東海にとっては非常に厳しい会社であったことだけは間違い無かったわけです。

JR東海が当初非常に地味なスタートを切ったのもそうした背景があったからかもしれません。

次回は、JR貨物の誕生についてお話をさせていただく予定としております。