JR唯一の標準軌普通電車が全て東北に存在する

日本の鉄道、特にJRの在来線は陸蒸気の時代から現代にいたるまで狭軌幅という世界標準規格(標準軌)より少し狭い規格を採用しています。しかし東北の奥羽本線の山形線と呼ばれる区間と、その奥羽線と大曲駅で接続する田沢湖線は、東北新幹線から直通する特急、所謂ミニ新幹線を通す関係でJR在来線では珍しく標準軌を採用しています。当然のことながらこの区間を通る普通列車も標準軌対応という事になります。

二つの形式、三つの種類

奥羽本線が山形まで改軌され、山形新幹線の直通が開始された時、日本初のミニ新幹線形式400系と共にJR初の標準軌普通電車、719系5000番台が同区間に導入されました。内装は狭軌版の0番台と同じく3ドア集団見合い式セミクロスシートとし、福島から山形、のちに新庄までの延伸区間も含めた全区間で使用されています。福島から米沢の間にある国鉄・JR3大難所の一つとされる板谷峠を通過する便は全てこの形式です。

その5年後、同じくミニ新幹線の秋田新幹線を直通させるため改軌された田沢湖線にも標準機普通電車、701系5000番台が導入されています。良くも悪くもオールロングシートで名高い701系では珍しくセミクロスシートを採用した形式となっています。のちに秋田新幹線は大曲から秋田方面へと延伸しますが、延伸区間の奥羽線大曲ー秋田間は標準軌と狭軌が共存する形をとったため、大曲から先の区間へは入出庫の時や臨時運用を除き運用に入りません。

701系標準軌タイプは山形新幹線新庄延伸の際にもE3系と共に導入されました。こちらは5500番台で、新庄ー山形ー米沢間の都市間輸送に徹することもあって他の701系と同様オールロングシートとなっています。一応板谷峠は越えられるようになってはいますが、編成数が十本もないこともあってか奥羽線秋の風物詩落ち葉はき運用以外で板谷峠を上り下りすることはありません。

狭軌の同形式よりも長生き?

この標準軌形式の中には狭軌版ではすでに一部編成を除き廃車になってしまった形式も存在します。なぜデビューがそこまで離れていない狭軌版よりも長生きしているかというと、運用線区の標準軌区間はせいぜい100㎞、150㎞弱くらいの距離しかなく、またその全区間を走りぬく運用も本数も少ないのが主な理由と考えられます。

この701系で一時期300キロ近く走りぬく恐ろしい運用がかつてあった

鉄道車両は長い距離を走れば走るほど車両の老朽化が速く進みます。加えて気象条件や立地、急こう配などが加われば一層老朽化が進み、置き換えサイクルを早めます。東北の電車のほとんどはこの条件下の中同地方を走り回っているのですが、この標準機形式が走る線区で過酷な場所と言えばそれこそ板谷峠などの県境区間くらいですので狭軌版ほど老朽化は進みません。勾配を含まない平坦な場所のみで運用されていればその寿命はぐんと跳ね上がります。

向こうしばらくは引退しなさそう

とはいえ古いものではもうすでに製造から30年を超えている形式もあるためそろそろ置き換えの事も考えなければならない時期なのですが、交流電車はただでさえ製造コストが高いのに特注の標準軌仕様にして製造しなければならない為できれば東日本はあまり作りたくありません。そしてこのコロナ禍による合理化施策で、新型車両はあまり作らないと公言してしまいました。お高い交流電車はもとより、その標準軌仕様は向こうしばらくは新型の話を聞けなさそうです。(了)

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