電化区間が全体の一割程度しかない路線たち

日本国内の鉄道路線は、2021年現在で全体の67%近くが電化されています。また、電化されているとはいっても必ずしも全区間電化されているわけでは無く、輸送が多い区間だけ電化してあとの区間はは旧来の非電化路線のまま、という電化非電化混在ケースも多々あります。

しかし、中には様々な理由からあまりにも電化区間と非電化区間の比率が極端すぎる路線も存在します。今回はその中でも電化区間が全体の一割程度、もしくは未満の路線をいくつかご紹介します。

一部区間どころか駅構内だけのパターン

前回までは理由はどうあれとにかく一区間だけでも電化しているパターンをご紹介しましたが、最終回となる今回は一区間どころか駅構内しか電化していないパターンをご紹介します。本当のことを言えば、殆ど蓄電池車使用の路線です。

烏山線(日本初の蓄電池車営業運転)

首都圏の数少ない非電化路線の一つである栃木県の烏山線は、首都圏最後のキハ40系使用路線でした。そのキハ40を置換る為にやってきたのは、かねてよりE991系(スマート電池くん)等を使用した実験データを参考にして制作された、日本初の蓄電池車両、EV-E301系(ACCUM)でした。キハ40系の置き換えも導入目的の一つでしたが、何より一番の理由は烏山線の路線長が同車両の蓄電池容量に適合しているからだそうです。

こうして蓄電池車の実験線に選ばれた烏山線は、同形式導入に伴って、終点烏山駅に蓄電池車のバッテリーに充電を行う設備を建設しました。この電車二両分あるかないかの架線(剛体)こそ、烏山線単独駅で唯一の電化区間(部分?)という事になります。このACCUMの成功は、路線の電化をする際に必ずしも全区間に架線等の集電装置を設置する必要がなくなった、ある種のエポックメイキングだと個人的に思っています。

スカイレールサービス(新交通システムの異端児)

山陽本線瀬野ー八本松間は、国鉄三大難所の一つとして数えられた程の急こう配区間(通称瀬野八)で知られています。その峠を下った先にある瀬野駅のすぐ横から、何やらモノレールのような路線が山の上にある団地を目指して上っています。この路線こそ日本どころか世界にも類を見ない独自の新交通システムを使用した路線、スカイレールサービス広島単距離交通瀬野線です。

モノレールのような立派な桁をしていますが、やってくるのはロープウェイかと見紛うゴンドラ車両。そしてこの車両が自走するのは駅構内付近のみで、残りの区間は桁構造の中に隠れているワイヤロープをつかんで瀬野の急峻な地形を上り下りしています。これらのシステムをまとめたものを、スカイレールという一つの独立した新交通システムとして定義するそうです。ただ、書類上は懸垂式モノレールという扱いで届を出しています。

すごい場所にすごいものが走ってる…

このスカイレールの車両が自走する駅構内の僅かな区間こそがこの路線内のひとくち電化区間です。発車するときはリニアモーターを使用してワイヤロープと同じ速度まで加速し、停車するときはワイヤロープをいったん離して、やはりリニアモーターでブレーキをかけて停車します。

男鹿線(九州の遺伝子を持つ東北のなまはげ電車)

男鹿線で活躍しているEV-E801系のベースとなったBEC819系についても併せて解説します。

世界初の交流蓄電池車両誕生

EV-E301系が運用に入る二年ほど前、同じく蓄電池車両の実用化実験に伴い、JR九州と鉄道総研が共同で「交流」蓄電池車両を試作すると発表しました。直流方式は上述の東日本のE991系や鉄道総研の実験車両など日本を含めいくつか実例があったのですが、交流方式の蓄電池車両は世界初の試みでした。一年後、817系を改造した交流蓄電池試験車、通称「DENCHA」がデビューし、筑豊本線の非電化区間や日田彦山線などで走行試験を行っています。

817系ベースだけど305系の要素も入っている

それから4年ほど後、その試験で得られたデータを基にして、これまた世界初の営業用交流蓄電池車両、BEC819系が筑豊本線の折尾以北、若松線区間にデビューしました。キハ40の置き換えや路線長が蓄電池容量と適合など烏山線の場合と共通点が多いのですが、それらとは別に、若松線の沿線である北九州市が掲げている「世界の環境首都」という方針に同形式がふさわしい、という事も理由の一つでした。それからほどなくして、複雑な経緯から両端が盲腸線となっているJR香椎線にもバッテリー容量を強化した300番台として導入されています。

なおこれらの路線は距離が比較的短いため単独駅での充電設備を建設していないので、(香椎線は香椎駅の設備で充電する)ひとくち電化路線としてはカテゴライズしません。

DENCHAベースの交流版ACCUM誕生

烏山線に導入済みの直流蓄電池車のみならず交流蓄電池車にも手を付けようとしていたJR東日本は、このBEC819系をベースに自社の交流電化区間で運用する蓄電池車を開発しました。それがこのEV-E801系です。

右上の剛体架線から電気をもらう

BEC819系との違いは正面のライトの配置や対応周波数と、東北の厳しい気候に耐えうる為の耐寒耐雪カスタムくらいで、あとは内装も含め共通仕様となっているので、701系などの東日本オリジナル形式が多数の東北地方でこの形式だけがどこか異端な雰囲気を醸し出しています。BEC819系が若松線のキハ40をすべて置き換えたのと時を同じくして、秋田県の男鹿半島を走る男鹿線に一編成がデビューしました。沿線の男鹿地方に伝わるなまはげ伝説にあやかって、電動車が赤色(ジジナマハゲ)、付随車が青色(ババナマハゲ)ととてもよく目立つ塗装になっています。

男鹿駅リニューアルと共にACコンセントが設置された。素晴らしい!

この車両が導入されるに伴い、烏山線の時と同様終点の男鹿駅に蓄電池充電設備が交流方式で建設されました。仕組みは烏山駅と同様、剛体架線にパンタグラフを接触させて急速充電し、列車は追分・秋田方面に折り返していきます。なおこの充電設備に送電される電気は、ほぼ二酸化炭素を出さずに発電された、CO²フリー電気を使用しているそうです。そして、2021年にJR東日本はこの形式を追加で5編成製造・導入し、男鹿線のキハ40系を置き換えました。同時期に新型気動車GV-E400系も大量導入されたのでこのダイヤ改正をもってキハ40系列は運用撤退、同時にJR東日本全管内の定期運用が消滅しています。(了)

あとがき:ひとくち電化の面白さはひとくちでは語れぬ

生贄電化のスピンオフとして始めたひとくち電化は今回で最終回となります。直通列車を通すためだったり営業電車の入出庫の為にしか使わなかったり、はたまたそもそも別の会社の管轄だったりと様々な形で存在しているひとくち電化。ひとくちでは語り切れぬ面白さは伝わりましたでしょうか。当方それなりにリストアップしてしらみつぶしに探しましたが、この前の宮豊線電化区間のように「ひとくち電化」していながらもこのシリーズで取り上げられなかった路線があるかもしれません。もしこのシリーズで紹介漏れしてしまった路線があったら是非筆者のアカウントまで連絡お願いします。