名実ともに日本最大の路線規模を誇る私鉄である近畿日本鉄道。

「近鉄」とよく略され、大阪、京都、名古屋、伊勢志摩、吉野から各方面への特急列車が毎日のように行き来する。

もちろん花形の特急列車は有名かつ優秀なものばかりで、それはかつて「初代ロマンスカーを称えるために創設した」と言われたブルーリボン賞の受賞数が小田急を差し置いてもっとも多いという現実にも如実に現れている。

しかし、鉄道会社は特急列車のみでは当然だが商売など成り立たない。

故に通勤型車両を導入して、沿線住民の輸送などに充て、役立てることも、鉄道会社にとっては重要なことだ。

今、「通勤型車両」というワードを出したが、昨今の大手私鉄が所有する通勤車両においては、

  • 全車両にLCDなどの案内表示機
  • VVVFインバータ
  • LEDの行先表示器

などの最新装備を盛り込んで運行していることがもはや普通になっている。

しかし近鉄に関してはどうか。

近鉄におけるドル箱路線としての役割を持つ奈良線ですら、これらのうち一つを完全達成できているわけではないのである。

他線についてもこれは同様で、さらにこれは全線に言えることだが、案内表示器がついていない編成が普遍的に存在しているのである。

加えてVVVF制御ですらない車両がほとんどの割合で存在し、名古屋線、大阪線においてはそれら抵抗制御の車両を未だに優等運用につかせている状態である。

もちろん、関西の大手私鉄の中で一番赤字がひどい会社が近鉄であることは承知しており、既存車両のリニューアルによって先に挙げた点を補完しようとしていることは紛れもない事実である。しかしそれだけでは他社に追いつけない点があることもまた事実である。

さらに車両の老朽化の影響もあるのか、車両点検や車両故障で遅れることが多くなってきている印象もある。

こうなれば通勤車両を早期に導入すべきということは明白になるかもしれない。

そして2022年5月17日、ついに通勤型車両の新形式導入が発表された。

様々な他社の車両の面影が垣間見えるこの車両。LCカーとして導入されることが決まったわけだが、車両材質やその他の仕様に関しては謎に包まれている。

今回はその謎に包まれた仕様に関して、どのようになるのかを考察していきたいと思う。

材質はどうなる?

近鉄の通勤車においては、8000系によるアルミ試作車やステンレス車の3000系導入による実証試験を経て、3200系を筆頭としたアルミ車の導入が進んできた。

アルミ車として製造された5800系(撮影:筆者)

後年デビューしたシリーズ21においても、すべてアルミ車で導入されている。

これらから推測するならば、今回の新車もアルミ車で製造されると思われる。全塗装となることからもその可能性は強いだろう。

しかし近鉄の直通運転先の車両についてはどうか。

阪神やOsaka Metroの一部車両はこの通りステンレス製となっている。

いやそれがどうした、と思う方もいるだろう。

では次にこれを見てほしい。

相鉄12000系(出典:Wikipedia)

これは相鉄の12000系電車である。

JRと直通運転するために導入された車両だが、この車両、実はオールステンレス製にもかかわらず全塗装されているのである。

つまり今回近鉄に導入される車両は3000系以来のステンレスカーである可能性があるということだ。

しかしここである疑問が浮上する。近鉄は今回の新車はいずれ他路線にも導入すると発表していたが、ではアルミより軽いステンレスで青山越えできるのかというような疑問だ。

3000系は抑速ブレーキを搭載していたらしく、誘導障害のことを考慮しなければ理論上は瓢箪山〜生駒の急坂区間を走れたことから、おそらく青山越えもできる性能であったとみなせる。

つまりスペックが公式発表されない限りは何もわからないというわけだが、3200系から今まで自社発注の通勤車はアルミ車を導入してきた経緯を考慮すれば、アルミ者の導入となる可能性が高いといえるだろう。

制御機器は?

2020年に導入された「ひのとり」でハイブリッドSiC使用機器が導入されていることを鑑みるならハイブリッドSiCで決まりである。フルSiCとなる可能性もあるが、ハイブリッドSiCの導入実績があるためフルSiCとなる可能性は低いと思われる。

まとめ

通勤車導入に硬派だった近鉄が約20年ぶりの通勤型新車を導入すると聞いて盛り上がってる人も多いだろう。

どういう仕様になるにしろ、老朽化が進んでいた車両を置換して省エネに貢献するのは様々な観点から見るといいことである。

近鉄のこの決定が、環境に少しでもいい作用を及ぼしてくれるだろうと、筆者は密かに期待している。